WEB小説『ヴァーチャル・ソルジャー』
【あらすじ】
 あの2020年東京オリンピックから約20年の時が流れた。その前年に元号も変わり、新しい時代を迎えたと誰もが実感した。そして、西暦2020年を過ぎて、社会のハイテク化はさらに加速した。やがて、コンピューターが人間を超えるシンギュラリティーが予想よりも早く到来し、人間はこれ以降、AIを中心とするコンピューターテクノロジーに依存する世界へと突き進むようになる。時は西暦2039年、超高度情報化社会が完成しつつある真っ只中で問題児の高校生宍倉涼太が選ばれた人間しか知らない未知の世界に触れ、衝突し、やがてその仲間達と共にヴァーチャル・ソルジャーとして時代を駆け抜ける物語の始まりに過ぎなかった。
  • 悠霧
  • 2019/03/24 (Sun) 23:26:52
涼太のいる廃都市は前の時のように相変わらずの不気味さがある。そして、すでに決闘は始まっていていつ襲ってきてもおかしくない状況だった。物音は自分の歩いている足音のみでそれが余計に不気味さを感じさせてしまう。すでにテストでこの雰囲気は経験しているのだが簡単に慣れるものではない。ここまで人工的に再現出来てしまうのかと考えるとこの電脳世界もしくは仮想世界を創り上げている人間は恐ろしいと誰もが思うに違いない。涼太は一丁の銃を片手に持ち、構えながら廃都市の中を歩いている。真田が今、どこに隠れているか掴めない状況にいる。そして、摩天楼のような高層ビルの天辺に人影が立っていて、先が尖っている槍のような武器を持っている。真田の眼下には涼太の歩いている様子をハッキリと捉えていた。
「君のような人間はここにいてはいけない。僕が勝って、消えてもらう!」
真田はそこから涼太をめがけて、槍の武器と共に飛び降りた。現実なら確実に失神しお陀仏になるだろうがこの世界ではそれは無い。
「!?」
上から急にかすかな音がしたので上を見上げると、人が槍を持って、自分の所に落ちてくるのに気づいた。落ちてくるスピードは速かったがギリギリの距離でとっさに避けることが出来た。しかし、とっさだったので転んでしまうような形になってしまった。
「惜しかった。残念!」
バン
真田がそう言うと一発の銃声が鳴り響いた。涼太が転んだ状態で真田に引き金を引いたのがわかる。涼太の銃弾はかする程度に終わった。
「その体勢でやるなんて、初心者なのに」
「お前ごときにやられるなんてありえねぇーよ!」
槍が地面に当たり刃先が砕けたのでその辺に捨て、新たな槍を真田の手に発現させた。
「ここでは僕が上だということ君にわからせるから」
「むきになってんなー。お前!」
「当たり前だよ。君に消えて貰いたくてしょうが無いんだ。」
そして、真田は槍を転んでいる涼太に向ける。さらに、会話を続ける。
「今まで散々、君達は僕たちを・・・ぼくたちを・・・オタクだからってバカにして僕や僕の友達を傷つけてきた。去年はそれで、僕の友達が・・・」
真田の言葉が詰まり、思いが浮かんでいる様子だったが心の整理をしたのか次の言葉が出る。
「死んでしまったんだ。君達が・・・」
転んでいた涼太が立ち上がり、喋り始める。
「俺たちが殺したと言いてんだろーが。言いがかりだぜ。あいつが勝手に死んだだけだろ」
真田がそれを聞いた瞬間、睨み。すばやく、首の手前に突きつける。と同時に涼太も真田に銃口を向ける。
「そうだよ。僕が助ける力が無かったから。それが悔しくて。だから、強くなるため、この世界に来たんだ。君と覚悟が違うんだよ!」
「へぇー。そうかよ。でも、お前はリアルじゃ大したことない」
「これ以上、僕たちをイジメるならリアルでお前達を懲らしめるつもりだったけど。ちょうどここに代表の君が来た。だから、この決闘を先輩から大佐に許可を願い出たんだ」
真田にとっては復讐場になっていた。すると、涼太が銃口を下に向けて、引き金を引く。真田にうまく反射して腕に当たりHPが削られた
「ああ。お前がそういうつもりなら、まずはここで決着をつけようぜ!記憶を消されるなんて冗談じゃねーから!」
「僕が勝って、君がここの記憶が消えた後でも、リアルでも君と決着をつける」
そして、真田は速いスピードでビルを駆け上がっていく。それに対して、銃弾を数発放っていくが当たらない。
「あれ。俺もやってみるか」
涼太も試しに移動スピードを上げて、ビルを駆け上がり、真田を追いかける。その様子を外の大きな画面のホログラムで早乙女は観戦していた。
「入りたてであそこまで出来るなんて、ソルジャーとしての才能があるってこと?私でもすぐには・・・」
真田も追いかけてくるのは予想外だったが駆け上がっている状態でそこから一気に向きを変え攻撃に転じようとしていた。駆け上がる時と比べて勢いよく下がっていく。涼太に一直線に向かって槍を突き刺そうと狙っている。
「まずっ!」
とっさにビル窓に銃弾でヒビを入れ、身体ごと窓に突っ込み、中へ回避した。その時に、HPが少し減ってしまった。
「逃さないよ!」
真田も後に続き涼太の割った窓からビルの中に入っていくと中の様子は天井のライトが点いていないので基本暗い雰囲気だった。しかし、何も見えないというわけではなく、外の明かりである程度は見える状態になっている。真田は近くに隠れていると思い、気配を探る。
バン
銃弾が真田の近くまで飛んできたのがわかる音だった。とっさに近くにある荷物の後ろに隠れる。
「近い。居るな。窓際に」
真反対にいるドア付近にいる涼太も真田が追ってきたのがわかり、外の廊下につづくドアのある方にすばやく移動して、真田のいる方向に引き金を引いた。足音がしたので隠れたことがわかる。真田が何か仕掛けてくる気配が無い。
(俺が仕掛けるのを待ってるんだろうな)
お互いにらみ合いが続いて、しばらく経つと、しびれを切らした涼太が動く。
「いるのは知ってんだ。外でけりつけてやるからよ」
大きな声で言うが反応は無い。聞こえてないはずはないのでとりあえずドアを出ようとしたその瞬間に相手はアクションを起こした。
「この瞬間を待ってたんだよ。君が背を向ける瞬間を!」
涼太が廊下に出る時にドアから出る時に背を向けたのを確認し、フルスピードで距離を詰め、真田の握っている槍で仕留めようとする。
「ちっ!お前みたいのがこんなことをするなんて意外だぜ」
涼太は後ろに振り向き、銃弾をすぐに放つ。銃弾は真田にヒットするが止まらず、突撃してくる勢いで次の引き金を引こうとするが弾切れだった。
「負けんのかよ。この俺が!」
「そうだ。君はここで負けて僕たちの痛みを知ってもらう!」
真田の涼太に向けた言葉は自分が勝利を確信したからでた言葉だった。
「お前がここまでやるなんて、意外に雑魚じゃないってことはよくわかった。でもなぁー、だからこそ・・・」
涼太は銃を捨て、ある武器を発現させる。それを見て、真田は驚いてしまう。
「それは!何で!」
「お前の捨てた奴さぁ!」
もっていたのは真田が捨てた刃先が砕けた槍で、涼太は密かに使えない武器を回収していた。そして、それで一撃を決めるとする。攻撃性は本来と比べて低いがさっきの銃弾のダメージがあるので、期待は出来るという涼太の戦略。鋭利な刃と砕けた刃が相手の身体にグサッと突き刺さると、互いのHPが下がっていく。しかし、お互い刺さった状態で拳で殴ろうとする。
「二人共、そこまでだ。これ以上は俺が許さない」
二人の前に新藤が突如として現れる。二人の拳は新藤の両手の甲で止められる。さらに景色も変わり何も無い訓練場の様子に戻る。
「処置のプログラムを二人に」
それからAIのミシナが現れ、HPの回復を施すプログラムを実行し、元に戻っていく。
「この勝負は引き分け。二人共、残留とする。これは命令だ。異論は認めない。真田君と早乙女さんは彼の力がわかったはず」
「大佐の言う通り、受け入れます。真田君はいい?」
「まぁー、何となくわかりました。しばらく様子を見ます」
ミシナの後に続いて早乙女も向こうからやってきて、真田を介抱している。そして、新藤の命令をこの決闘を見て納得した。
「けじめとして三人は一週間の謹慎処分だ。仲間同士で個人的な感情で決闘をしたんだ。それを助長した早乙女君もだ。いいな?」
時間も丁度きたのでダイブ終了となる。三人は地下から地上へ上がる為のエレベータの中で無言だった。エレベータの扉が開くと、夜になっていることがわかった。
「これからよろしく頼むぜ!二人共」
「それは君、次第じゃない」
「そうですね!先輩」
防衛省の施設から外に出て、門へ向う途中に明らかに場違いで綺羅びやかな格好をした女性が門の方向から歩いてくるのに気づいた三人。
「仕事用で来ちゃったわね。本当は普段着で来るつもりだったけど夜だから、ついクセが出ちゃう!」
そして、女性とすれ違うと、涼太と真田は釘付けになってしまう。それほど、濃いめのメイクはしているものの格好に相応の顔がきれいに整っている印象だった。三人は後ろを振り向いて、女性が施設内に入っていくのを見る。
「すげぇー、きれだけど。あのビッチなおねえさんは何しにいくんだろうな?」
「夜の人ぽっいわね。どうせロクでも無いわ。別世界の人」
「さぁー、早く帰らないと。夜に高校生が出歩くのはよくないですから。先輩」
三人は門で退出の手続きをして、門の外に出る。夜なので別れを言って、それぞれタクシーに乗って帰っていく。そして、一週間が過ぎて三人共、あの世界へ意識をダイブさせヴァーチャル・ソルジャーとして青春の日々を駆け抜ける。

<了>
  • 悠霧
  • 2019/03/31 (Sun) 19:02:57
 三人はトーラスタワーの中を調査している。トーラスタワーに送信されたデータはトーラスの中、正確には地下の割り振られている区画に送られている。そしてこの世界ではデータの動きも直接目で見ることも出来る。データの形はわかりやすく四角だったり丸だったりと色々なタイプがある。このミッションは侵入したウイルスを地下の区画に入る前に駆除するというのが内容になっていた。初心者でも可能と判断され、チュートリアルミッションに指定されている。
タワーの深部に近づくにつれ、データの塊が多くなっていて、ウイルスが紛れている可能性があった。
「地下に異常の報告が無いなら、近くにいるはずだ。まだタワー本体のセキュリティーが効いてウイルスが足止めされているはずだ。だが、いつまでも保たない。D級ミッションでも油断禁物だ」
新藤が注意深く辺りを見回しながら涼太に言う。
『そろそろセキュリティーのある付近です。もうすぐ、遭遇します。気をつけてください!』
涼太に敵が近いと警告する。しかし、AI347号は武器を出さないし新藤も同じである。それは涼太に与えられたミッションだからである。二人が手を出しては意味が無いということである。
敵が近いと言われた涼太は銃を再び発現させる。
「こんな感じか!やっと慣れてきたわ」
入り口からここに来るまで武器の出し入れの練習を数回していた。そして、攻撃しているような音が聞こえてくる。その正体はアメーバ状でねずみ型のウイルスで小さいサイズである。セキュリティーにアタックしているところだった。
「ここまで紛れこんでいたか!見直しだな」
新藤が言ったのはセキュリティーの見直しが必要だということを言った。
『あなたでも駆除出来る程度です』
涼太はウイルスに照準を合わせた。定まったことで引き金を引いてみるが、気づかれ逃げられる。小さい為、すばしっこいのでつかまらない。
「宍倉くん。あのテストの感覚を思い出せ!」
「あれか!」
涼太はこのとんでもバイトのテストの時を思い出した。そして、落ち着いて音を出さないようにゆっくりと、ウイルスに照準を合わせようとするが、すばしっこく動く為、簡単に引き金が引けないのが現状だった。涼太の銃に込められている弾は弱いウイルスを撃ち抜くと、消滅させられる。
「!?」
動き回っていたウイルスが一瞬、止まった。それに気づいた涼太は見逃さず、完全に照準を合わせた。
パンパーン
二発の銃声が鳴り響いた。ウイルスを見ると、消滅し姿・形が無くなっている。
『ファーストミッションクリアです。初めてにしては中々で久しぶりでした』
「ステータスを見てみろ!この調子でミッションをこなしていけばレベルが上がっていく」
ステータスを見るため「”ソルジャーコマンド”」と強く意識して、ステータス画面で個体能力を開くと、レベルゲージは変化していた。

B Level 13

基礎レベルが3上がった。そして、それからも似たようなミッションをこなしていく。テリトリーに侵入したレベルの低いウイルスを退治したり、サーバーを状態を調査をするという雑用もする。雑用も経験も低いがレベルアップのポイントに繋がったりもする。涼太のレベルは順調に上がっている。AI347号の場面に応じたアドバイスのおかげであることも大きい要因でだった。自分のステータスを見てレベルの上がっていることを確認した涼太の表情はニコニコしていた。
「お前の名前思い付いた。”ミシナ”って呼ぶわ!」
D級ミッションをいくつかこなして、レベルアップした直後にノーマルトーラスの表面を歩いている時に突如、顔を向けて言い出した。
『番号呼びでも構わないのですが、宍倉涼太さんがそうしたいのならば・・・』
「あのさー。さっきも言ったっしょ!フルネームでいちいち呼ばれるのもうざい。”涼太”でいいから」
ある意味似たようなことを言っているような二人だったが、AI347号の方が折れる。
『わかりました。涼太さんと呼ばせて頂きます』
「まぁー、いいか。もうー!」
ミシナに対して、まだ思う所はあったが、AI特有の固さについて少しはマシになったので今はそれ以上のことは言わないことにしようと思った。そして、前触れも無く通信が突然入ると涼太は出ようとする。
”隊長”
新藤からの通信を表している。ミッションの様子を伺ってきたのだろうと涼太は思い、通信を開いた。
「もしもし、宍倉っすけど。今、ミッション終わりました。で、何すか?」
「ああ。こちらでも確認した。だから、君にかけた。今日は先輩を紹介する。君のいるノーマルトーラスに連れていくから待機しててくれ」
涼太には先輩が来ると聞いて気になることがあったので新藤に聞いてみることにした。それは単純なものであった。
「その先輩って男・女どっちすか?」
「そうだな・・・。いいことを思いついた!この通信を切ったら目を瞑ってくれ。俺が声をかけるまでだ。先輩の方もやってもらう」
何かを思惑があるのか新藤はサプライズ的な企画を両者に持ち込んできた。涼太は面白そうだと思ったので了解した。新藤との通信を切って、今のことをミシナに説明すると、ミシナは少し微動だにしなかった。やがて、何かが終わったのかミシナはあることを言う。
『涼太さんに言ったことに基づき、確認しましたら・・・後はお楽しみです』
気になる言い回しが気になったが新藤の言った通りに目を瞑ることにする。しばらくして、複数の足音がこちらに近づいてくる。目を開けたくなるところだがそこは我慢をする。足音がものすごく近づいたかと思ったら急に止まった。もう、目の前にいるのだろうということがわかる。
「待たせたな。まだ、開けるなよ。二人共!」
二人の距離は近く向かい合っている状況になって、目を瞑っていることを新藤は確認した。
「目をゆっくりと開けてみろ。ゆっくりだぞ!」
新藤の言われた通りに従いゆっくりと目を開けていく。涼太はその隙間からシルエットが見えて髪が長いことから女性であることがわかった。
 女性は新藤から新人の後輩を紹介すると言われ、着いていく。ノーマルトーラスにワープ移動すると目を瞑ってくれと言われたのでその通りにした。そして、指示通りにゆっくりと目を開いていくと自分のよく知る人物だった。彼女は一気に最悪な気分に変わり、こんなこと絶対あるはずないと思っていた。しかし、目の前のことは仮想世界なのだが現実の出来事だった。
「大佐!何でこんな奴がここにいるんですか?もしかして・・・ありえない。即刻、記憶を消してクビにしてください!ここにいるべき人間ではありません!」
涼太を指さして、声を張り上げながら感情的に言った。新藤も普段の彼女とは違い、感情的だったので驚く。いつもの彼女は冷静で論理的で氷のような雰囲気をだからだ。
「早乙女君。落ち着きなさい!君らしくもない。彼とは同じ学校であることはもちろん彼の学校での素行についても事前に理解している。それを踏まえて、彼をここに向かい入れた」
「私も納得出来ないし、真田君だって・・・」
涼太は目の前の女性をよく知っている。あの冷たい雰囲気の生徒会長の早乙女であることがわかった。学校の時と違いいきなり声を張り上げて、指を指してくる。思わず心の中でビックリするほど意外だった。それとどっかで聞き覚えのある名前があった。
「真田・・・。どっかで聞いたな!」
そう言うと思いっきり、涼太を睨んでくる。あの冷たい視線とは違う。
「自分がイジメている同級生の名前も知らないなんて。本当にふざけてる!こんな男と一緒に戦うなんて不可能よ」
「真田って言うのか。あいつ。イジメてねぇーけど」
そう言うと早乙女は刀を取り出し、抜き始めた。新藤は二人のやり取りに今まで割ってアイれなかった。早乙女の感情が久しぶりに剥き出しになったのを目の当たりをしたからだった。
「よせ。早乙女。それは許されない!」
新藤が早乙女に睨みを利かせると雰囲気が落ち着く。
「今の君だと、瞬殺だよ!」
「ああ。そうかもな」
涼太は早乙女の醸し出す殺気に近い、怒りの雰囲気などを感じた。
「あいつ、いるのか。今」
涼太は突然、この空間に今、真田がいるかどうか聞く。
「なんで?」
早乙女が疑問を聞くと涼太は表情をニヤッとする。
「楽しいことしたいからさ。それに聞きたいこともあるしなぁー」
「学校みたいに行かないわよ。この世界での真田君はあなたより強い」
早乙女はホログラムの画面を出し、二回ぐらいタップすると、一分もしない内に突如として喋り始めた。
「もしもし。私よ!今どこ・・・そう。それでビックリするかもしれないけど・・・」
誰かと会話している早乙女。それを見ていた涼太は新藤から話かけられる。
「あれはわかっての通り、電話をしている。現実のように受話器のような機器は必要としない。今、相手の会話が聞こえないのはプライベート設定にしているからだろう。相手は真田君」
「あいつ」
そして、早乙女が話をしていて、こちらをちょくちょく見てくる。
「・・・やるのね。わかったわ。そっちに連れていくわ!」
ホログラの画面を一回タップをして、通信が終わった。涼太は何を話していたのか気になる。
「今から真田君のいるところに行くから。彼もちょうどミッションが終わったところだったらしいから。それと彼から話があるそうよ!」「ふざけんな。何で俺からあいつのところに行かなくちゃいけないんだ!」
涼太がそう言うと、早乙女は涼太の首筋に刀を突きつけた。
「黙りなさい!」
氷の視線で涼太を見る早乙女。逆らえば許さないという無言の圧迫感が涼太に伝わってきた。
「やってみろ!どうせ、ゲームだからな!」
「いいえ。死ぬわよ。今、このまま私があなたの首を突き刺したら」
涼太はどうせ脅しだろうと思っていたが、大佐の反応を見ると嘘ではないらしいと悟り、意識がフリーズする。
「正確にはHPが0になると意識はデリートされるが、意識の器である肉体が残る。そこに新たな別の意識が入り込む。つまり、君であって君ではない。今の君は死ぬってことだ!」
涼太はその時、唾を飲み込むことが出来なかった。
「今から訓練場のあるトーラスに移動するわ。大佐よろしいですね」
指揮官である新藤の許可を得る早乙女。自分たちの上官の頭越しに勝手な行動は取らないという心得はある。
「わかった。一連のことを許可する」
早乙女と真田がこれからすることもわかって、総合的に判断してのことである
「ありがとうございます。大佐」
涼太達は訓練場のあるトーラスに移動する。その間、涼太は沈黙している。
(マジかよ。どっかのゲームじゃねぇんだから)
別のトーラスに移動するためのポータルゲートに着く。仮想世界なのだから都合よく移動出来ないのかという疑問が浮かんでくる。それは限りなく高位レベルのソルジャーのみに権限が付与される。涼太達はそこまで達していないのでまだ使うことが出来ない。
ポータルゲートはエレベータのような扉の中に入り、移動するようになっていた。そして、中に入り、新藤が操作をするとやがて扉は閉まり、ノーマルトーラスの景色は見えなくる。その間にも早乙女は涼太に冷たい視線を向けていて、それを感じていた。すぐにも扉が開き、景色が再び見えてくる。基本的には色の基調なども同じ見えるが所々違っていた。
「宍倉君。訓練場があるマルチトーラスだ。このテリトリーでも複合的な場所でノーマルトーラスよりも重要性が高い」
そして、訓練場のある所まで連れてこられた。その訓練場とは広場のようなところになっており、向こう側に一人立っている人物がいた。
「真田君、連れてきたわ」
早乙女が真田の方に行って、告げる。新藤とAI347は見守っていた。
「お前みたいな奴がこんな怖ぇー所にいるなんて、意外だぜ!」
新学期の日に涼太がちょっかいを出していたオタクたちの一人である。
「それはこっちにセリフと言いたいよ。君みたいな嫌がらせする奴が僕たちと同じソルジャーとして入ってくるなんて、何かの間違い・AIのバグかと思ったよ!」
「残念ながらそれではない」
遠くから見守っていた新藤がこちらに近づいてきて、否定した。
「学校と違ってよくしゃべんなぁー。ゲーム弁慶って奴か。お前?調子に乗るな!」
「うるさいなぁー、君。君とだらだら話す気は無いよ。正直、言ってここから出ていってもらいたい。君はいて欲しくないんだ!」
「はぁー。好き勝手いってんじゃねーぞ。てめぇー!」
涼太は真田からいろいろとハッキリと言われ、ピキってきていた。真田の言葉をまとめると「不愉快」であると。
「黙りなさい。今は真田君の話を聞きなさい!」
早乙女は刀先を再び涼太に突きつけ、落ち着くとすぐにしまう。真田が話を続けようとする。
「そこでどっちがこの世界を出ていくか一対一で勝負して欲しい?」
「お前、度胸あんな。いいぜ!やろうぜ!こんな所を知って、記憶を消されるなんて冗談じゃねぇーよ!」
新藤を見ると、ホログラムを何やら操作している。すると、訓練場の広場の様子が変わっていく。
「あの時に似てるじゃねぇーか!」
変化して現れたのは荒涼とした廃都市で、涼太はこの世界に入る為のテストの舞台だったことを思い出していた。一方、真田と早乙女も眺めている。
「懐かしいですね」
「そうね。久しぶりに見たわ」
この二人もかつてはあのテストを経験していて懐かしんでいた。
「あのテストとほぼ同じ舞台だ。本当はこんなこと許すわけには行かないが今後のことを考えれば仕方ない。ここでお互いケリをつけ
ろ。10分後に開始だにセットした」
今後のチームの活動への士気や影響を考えた上での判断だった。本来ならこんな勝手な行動や決めごとはアウトで厳しく指導しなければならないところで正規の兵士であれば即アウトな状況だった。そこは新藤の二人の個人情報を踏まえての裁量なのだろう。
「僕から先に行くよ。10分後、君を必ず仕留める。先輩、待ってて下さい」
真田はそう言うと、廃都市の中に入って行った。涼太はたった今きになったことを早乙女に笑みを浮かべて聞いた。
「ひょっとして二人は付き合ってる感じ?」
「別に!そう言うの浮ついた関係じゃないから」
早乙女が真田と男女の関係にあることを否定した。二人は別の関係で結ばれているようであることを早乙女の発現から読み取れ無くもない。
「面白くねぇーの。あいつは俺を仕留めるってほざいていたけど、返り討ちにしてやるから待ってろ!」
「がんばってください」
涼太もそれを言うと、ミシナの応援の言葉を聞いて廃都市の中に入って行った。
  • 悠霧
  • 2019/03/29 (Fri) 22:16:47
 涼太は初めて仮想世界に降り立った。目に映る景色はグレーが基調で機械的な感じである。ところどころ緑など色の付いているところもあるのだが、全てはプログラムで出来ていることを思い出す。そして、上を見ると少し遠くだろうか?イメージとして衛星のようなものが動いているのが見えた。さらに遠くにも何かがあるのがわかる。見ていてもしょうが無いので歩いて見ることにした。すると、向こうから同じ服を着た複数の女性の人が歩いてきている。涼太は気になったので話かけてみる。
「ねぇー。そこの人!俺と同じでログインしてるんだろ!」
女性の一人が立ち止まり、残りは歩いて行ってしまった。
『あなたを認識出来ません。検索します』
「検索って・・・」
数秒、微動だにせずしているとやがて、反応を示す。
「初めまして、我々の新たなソルジャー宍倉涼太さんですね。この情報を共有します」
「何か良かったみたいだな!」
「はい。そうです。侵入者ならばあなたをウイルスとして駆除してました」
そして、後ろから足音が聞こえてきた。このプログラムの世界でも足音もしっかり出るようにプログラムされているようだ。女性はすぐに敬礼をする。
「!?」
「宍倉くん待たせたな!」
新藤が涼太の後ろから声をかけてきた。気づいた涼太は後ろを向く。新藤の姿は現実の軍服ではなく、簡単な特徴としてマントを羽織っているのが印象的である。
「敬礼解いていいぞ。それと、付いてきて彼をナビゲートしてくれ」
「了解しました。大佐」
「さて、いざ説明してもわからんだろうから実践と行くか!実践を通じて説明する」
涼太は新藤についていく。彼女も後ろからついてきている。
「後ろの彼女って俺と同じで選ばれた人っすよね?」
「気づかないのか?まぁー、無理もないだろう。彼女は人間じゃない。AIだ。AIは知ってるよな?」
「もちろん。俺のスマホにもいるし」
携帯にAIが入って約20年以上経っている。昔と比べてAIは人の音声を確実に聞き取れるようになり、携帯に組み込まれているAIの利用率が高くなった。だいぶ、世の中に浸透し、欠かせない存在になってきていた。
「君は今、使っているか?」
「俺はあんま使わないな。それに自分の部屋でAIと会話なんてきもいし」
「そうか」
新藤は目を細めながら涼太を見ていた。そして、涼太の後ろのAIの様子に気づく。
「宍倉くん!彼女が複雑な表情をしているぞ」
涼太は後ろを振り向く。
「お前にキモいって言ったわけじゃねーけど。感情が以外に繊細なんだな!」
その一言に反応した新藤は涼太に真剣な表情で大切なことを語りかける。
「宍倉君。ここでは彼女らとはフェアに接して欲しいと俺は思っている。肉体以外を除けば、人間と何ら変わりないろんな感情を持っているんだ。特にこの”G-Cloud"にいるAI達は。落ち込んだり、元気になったりとな」
『いえ、大佐。そんなに気にしておりませんので』
それを見た涼太は少し罪悪感を持ってしまい、何だか気持ち悪かった。
「悪かったわ。あやまっから」
『気にしないでください。宍倉さん』
それから、しばらく歩いて行く。その途中がてら、この空間について説明してくれた。
『ここは日本のテリトリーでこの国のサイバーを守る最前線の砦です』
「破られたらどうなるわけ?」
何となく疑問が浮かんだので聞いてみる。
『現実に実害が出る可能性があります。例えば大規模停電とか。後、実際には・・・」
「それ以上は・・・」
新藤が険しい表情をしながら説明に割って入ってきた。しかし、フォローの為ではないことが雰囲気でわかる。
「おい、何だよ?」
『・・・』
AIは沈黙している。変わりに新藤が口を開く。
「気になるだろうが、続きはいずれ説明をする。これは最高レベルの機密事項も含むことだ」
『そう言えば私の自己紹介がまだでした』
話題を逸らすように口を開いた。
(聞いてねぇーな)
『このテリトリーやソルジャーの皆様を支える為に生み出された汎用型支援AI、No,347Jです』
ここの汎用AIは人間のような名前はなく、番号がつけられている。一個体一個体に名前をつけていたら見分けがつかないというのもあるからだろう。
「何て読んだらいいんだ?いちいち番号で呼ぶのめんどくせぇーよ!大佐のおっさんは何て読んでんの?」
「数はそれなりにいる。汎用型までは俺も覚えるのは難しい。服にある番号を見て呼んでいる」
近未来を思わせるようなAiの着ている服をよくみると名札のようなものがある。しかし、涼太の反応を見ると少し否定的である。
「番号呼びは何か気持ち悪いんだよな。呼んで欲しい名前とかねぇーの?」
『そのような質問は初めてです。しかし、お気遣いは無用です。番号でお呼びいただいた方が便利かと』
軽く下に顔を向けて言う。
「そうじゃねぇーんだけどなぁー!」
涼太は落ち着いた口調で話す。AIの方はそれ以上反応を示すことは無かった。プログラム以上のパターンだったかもしれない。それをわかったのか新藤が会話を続ける。
「どうしてもと言うなら、焦らずこれから決めればいい!さて、ここだ!」
目的の場所に着くとそこは電波塔のような建物がある。そして両開きのドアの横の所に赤くランプが点滅しているのがわかる。
『この中にウイルスが潜んでいます。それがわかるのが今、点滅しているランプ。宍倉さんには今から駆除して頂くのがミッションになります』
「早く駆除しなくて良いのか?まずいんじゃねぇーの」
ウイルスと聞いて、急がなくていいのかという疑問が涼太の中で浮かんでいる。それを察したのか新藤が答える。
「最も意見だな。だが、この中にいる奴はウイルスの中でも小物だ。つまり、新人のソルジャー
レベルでも対処出来るというわけだ。347号は彼にチュートリアルを」
「ゲームじゃん!」
涼太が以外にもボヤいてしまう。そのボヤキには反応せずチュートリアルに入る。
『ゲームの要素も含んでいるG-Cloudについて、テリトリーはここだけではありません。この世界に選ばれた国家に一つのテリトリーがあるのです』
「例えば、アメリカとかロシア。世界のp5はテリトリーを保有している」
世界のp5とはアメリカ・ロシア・フランス・イギリス・中国のことである。2039年になってもこの五カ国が表面的に世界をリードしている。
「何となく習った記憶があるな。それ」
『そして、今いる所がノーマルトーラスという場所です。トーラスは円環を意味し、ここ以外にも複数あります。目の前のタワーがノーマルトーラスの中にあるサーバーの送受信施設の一つです』
「要は、トーラスは多くのサーバーを分類して束ねる場所だ。ノーマルトーラスはテリトリーの中でも重要性は高くない」
新藤がそう言ってから突然、ホログラムが新藤の胸の手前辺りに現れた。ホログラムは長方形でその中に横線が入っており、項目が選択出来るようになっているような感じである。
「それってキャラクターのステータスじゃあ・・・」
涼太はホログラムが突然出てきて、一瞬何か分からなかったが、少し凝視していたら分かった。
「その通りだ。君のこの世界でのキャラクターデータがわかるようになっている」
ゲームをやっていたから、涼太は何となくわかったのだろう。
『ゲームと同じだと思えば、理解しやすいです』
AI,347号が涼太が理解しやすいように補足しようとするが。
「その辺はわかるつぅーの!」
そこもわからないほどバカでは無いと言いたいような感じである。
「心の中で”ソルジャーコマンド”と強く思ってみるんだ」
言われた通り「”ソルジャーコマンド”」と強く意識して見ると、長方形のプログラムが涼太の手前に現れた。
(やべぇーな。VRでもこんなこと出来ねぇーのに)
ここが仮想世界であることをVRでプレイしている時よりも実感している。VRならばコントローラで操作しなければならない。しかし、仮想世界”G-Cloud"ではコントローラは一切ない。レベルがこの時点で違う。
「個体能力をタップしてみろ」
ホログラムにある個体能力をタップしてみると、”ベーシック”、”アタック”・・・などの選択項目があった。
「次にベーシックをタップする」
出てきたのは、レベルの数値とレーダーチャートである。レーダーチャートには3つの項目がある。LとMとBの意味について、説明される。
『LとはLifeで生命力、MはMentalで心の力、BはBodyで体力という意味になります』
AI,347号が詳しく涼太に対してそれぞれ意味を解説した。
「宍倉君の基礎レベルは10。この世界ではリアルの面も反映されている。初期値でこれは久しぶりだ。これから経験を積んでいけばレベルは上がっていく。手始めに簡単なウイルスを駆除していくことから慣れていってもらう」
出だしは良いとは言え涼太のソルジャーランクはDと表示されていた。ソルジャーランクは個人の総合レベルを表している。それに合わせたミッションが与えられる。
『これから最下級”D級ミッション”を受けて頂きます。チュートリアルミッションでもあります』
「大佐のおっさんはどんぐらいっすか?」
新藤もこの世界にいる以上はステータスを持っていることはすぐに想像出来る。それで涼太は気になったので聞いてみる。恐らく高いのだろうと。
「いいぞ。見せてやる!」
新藤のステータスを覗いてみると。
「・・・」
涼太は沈黙した。頭の中で何も思うことが出来ない。
「次は武器の選択。拳・銃・剣からどれかを」
『画面を戻し、”アタック”を選んで下さい』
涼太はどれにするか少し考え、拳銃を選択する。
そして、銃の項目を選択し、セレクトのボタンをタップすると、ゲージが浮かび上がり左から右に走り、やがてホログラムは消えた。
「設定完了ということだ。”ウェポン”と強く思ってみろ」
(ウェポン!)
するとハンドガンが手に持つ形で現れた。
「ミッションスタートだ!」
トーラスタワーの入り口が開かれ、三人は中へと入って行った。
  • 悠霧
  • 2019/03/28 (Thu) 20:44:29
-防衛省のとある執務室
「大佐。入ります」
大佐と呼ばれた男は、立って窓の外を眺めていたが、呼ばれた方向に向いた。執務机に置いてあるネームプレートには”統合幕僚本部サイバー戦略部隊司令大佐新藤将仁”と書かれている。
「内海大尉か。試験結果を聞こう」
かつて19年前までは前身の自衛隊であったのだが、憲法改正により国防軍として再編された。それは国際社会の時代の急激な変化に対処していく為のもので、当時、マスメディアを通じて反対意見が圧倒的に多かったが、最後国民投票で改正されることになった。
「応募多数でありましたが、合格者が三名出ました。これを」
「穴埋めの問題無くなったが・・・」
女性である内海大尉は試験結果の報告書を新藤大佐の執務机に置いた。新藤大佐はそれを手に取り眺める。
「宍倉涼太。高校生か。これで三人になるな」
この報告書には個人の素性の内容もある程度含まれていた。
「素行に問題ありだな。これは。本来ならアウトだが・・・」
「はい。しかし、ここには意外性のある人材も求められますので」
内海大尉が新藤大佐の言葉に続けて話すが本来なら上官の話の最中に部下が話すことは問題行為である。しかし、新藤大佐は咎めることは無かった。
「そうだ。これは規律だけでは乗り越えられない問題だ。だから、民間から募集を始めた。それにしても、相変わらずお前は」
「では、手はず通りにしてもよろしいですね。大佐?」
「そうしてくれ」
それを聞いて、内海は退室する前に一言付け加えた。
「大佐。失礼します」
「色っぽい奴だ!」
「大佐。セクハラです!」
そう言うと内海大尉はゆっくりと歩いて執務室から出ていく。新藤大佐は再び窓から眼下の東京の街を眺めた。しばらく、眺めていると執務机の電話機が鳴り受話器を取る。
「統幕長が・・・わかった。この後、行くと伝えてくれ。ご苦労」
統幕長は統合幕僚長の略称で国防軍における軍人のトップである。新藤大佐は電話を切るために受話器を置いた。やがて、統幕長の所へ向うために新藤大佐も執務室を出ていくと執務室は静寂になった。
 あれから涼太はある動画を見せられた。それは今までゲームでも見たこともないデジタルな世界である。黒い惑星のような球体の周りに複数の円環が覆っていて、さらに離れたところに衛星が回っていた。そこでアバター達がアメーバ状の敵と戦っているシーン見て、終わるとメッセージが表示される。そのメッセージ通り後日、説明される場所に行った。
「防衛省って。やばいな」
今、防衛省の前に立っていた。建物は20年前の物と変わらず、大きくそびえ立っている。そして、門の受付で自分の名前を言った。
「今、確認するから待ってなさい」
守衛の人はそう言うと、電話で確認する。待つ時間はそうはかからなかった。
「許可が降りたから、これに自分の名前を書いて。それとこれを・・・」
入退出の名簿に自分の名前と目的と入門の時刻を書く。さらに許可証を渡され、それを首にかけた。そして、歩いて本庁舎の中に入っていく。さらにそこの受付でも自分の名前を言った。
「マジで、めんどっ」
涼太は小声で言ったのでこの一人ごとは聞こえなかった。
「案内の人が来るので、しばらくそこでお待ち下さい」
革張りのいすでしばらく待っていると、制服を来た女性が現れた。第一印象はすらっとしていて目鼻口が整っていて、いわゆる美人の部類に入るだろう。
「あなたが宍倉涼太さんですか?」
「そうですけど」
椅子に座りながら上を見上げて答えた。
「今時の高校生と言った感じですね!」
「はぁ!」
涼太はいきなり初対面で自分の感想を言われたのでムカッとする。それを気にせず話を続ける。
「私は国防軍統合幕僚本部所属内海大尉です。よろしく」
「内海さんはきれいだけど、性格にクセがある人ですね!」
「今は無駄話の時間ではないので、私についてきて下さい」
そう言われたのでとりあえず椅子から立ち上がり、内海大尉の後について行く。そして、エレベタに乗った。涼太は上に行くかと思ったが内海大尉はB5Fのボタンを押す。その後にICカードをかざすとエレベータは下へ降りていった。エレベータ内にあるモニターはBF1、2と変わっていく。
(女の軍人って、こんなのばっかりか?)
そう思っているとモニターの数字がBF5で止まると、同時にエレベータも止まる。ドアが開いた。
「こちらです。今から大佐との面談になります」
(大佐って。アルバイトなのにとんでもないことになってねぇー)
涼太は地下5階のとある会議室の前まで内海大尉に案内された。
コンコン
内海大尉はドアをノックし、少し大きな声で言う。
「大佐っ。宍倉涼太さんを連れてきました」
ドアの向こうから返事が返ってきた。
「あぁ。内海戻っていいぞ」
「はい」
内海大尉は一言涼太に声をかける。
「さぁ、入りなさい」
入るように促された涼太はドアを開け入っていくと、奥に体格の良い男が椅子に座っていた。そして立ち上がる。
「始めまして。宍倉涼太君。こちらに来て座ってくれ。話をするから」
涼太は言われた通り、部屋の奥の方に歩いていき椅子に座る。新藤大佐は立ったままである。
「あの動画どうだったかな?」
唐突に聞いてきた。涼太が見たデジタルのような世界が広がっていて、そこにアメーバ状のものが襲ってくるシーンの動画のことである。
「て言うかあれ、何すか?ゲームでも見たこと無い」
「そうだね。まず言っておくと、あの世界が君のアルバイト先になる」
「ゲームのテスター見たいな感じっすよね。求人にも書いていたし」
あの見覚えのない求人のことを思い出して、ゲームで時給も良かったので食いついた。涼太は楽観的な表情をしている。新藤大佐の方は真面目な表情をしていた。
「ゲームであることは間違いない。求人の通りだ。ただねぇー。・・・君達、若者や子供がやる娯楽ゲームでは済まない」
「!?」
何かを思い出したのか楽観的な表情が涼太から無くなる。新藤大佐はその様子を見て説明を続ける。
「そうだ。”みんなを守るお仕事”。つまり、みんなとはこの国に住む人々国民のことだ!」
「よくわかんないっすけど、俺、アルバイトで国守るってことっすよね?」
新藤大佐はうなづきながら・・・。
「そういうことだ。だから時給は高めになる。それとこれは国家機密でアルバイトと言えども守秘義務が発生する」
涼太は内心ビビってしまう。そして、恐る恐る新藤大佐に思ったことを聞く。
「もし、それを漏らしたら?」
「戦中以前ならば死刑になる。が、今なら恐らく懲役二桁ぐらい行くだろう」
唾を思わず飲み込んでしまう。
(高校生がやるバイトじゃねーよ。これ。断った方が・・・)
もう一つ気になることがあり、聞いてみる。
「学生って俺だけですか?」
「君だけじゃない。他にもいる。・・・それに立派に任務をこなしている」
(どんな奴が?)
新藤大佐はここから表情が険しく、怖くなった。まだ、涼太に肝心なことを聞いていない。
「宍倉涼太。これ以上、説明するには君と契約しなければならない。さて、答えを聞こう」
涼太は新藤大佐の表情と口調さらに今までにない雰囲気に気圧されてしまった。身体がまるで硬直してしまった状態になり、ただ心臓の音が聞こえるだけである。
「・・・」
沈黙に対して新藤大佐は畳み掛けるが如く、次の動きを見せる。静の状態から動の状態へ。
新藤大佐は涼太に近づいた。その次の瞬間。
「どっちにすんだー。てめぇー。こっちは学生の娯楽じゃ済まねぇーんだ。いい加減な気持ちなら辞めたっていいんだぜ!」
涼太に対して怒声が飛んできた。その声は部屋一杯に鳴り響いた。目を見開いてしまう涼太がいる。
(教師の説教どころじゃねぇーよ。でも、高時給は手放せねぇー)
涼太はビビりながらも答えを出す。
「冗談じゃねぇ―。やるからなぁー!」
「金だけの為ならいらねぇーんだよ。こっちは。他所に行け!」
新藤大佐はやせ我慢だと察していた。だが・・・。
「それだけじゃねぇ―から。おっさん。おっさんの話を少し聞いてさぁー。ゲームでかっこいいこと出来ると思ったからさ!」
「お前を調べさせてもらったがゲームをやる奴を見下す側だと思っていたが・・・」
新藤大佐はタブレットを取り出し、涼太の個人データを提示する。涼太はそれに驚いた。しかし内心で留めておく。
「怖ぇーと言いてぇーけど、そんなんで俺を決めつけんな。こんなんかも知れぇーけど、ゲームはやるし、それに見下すわけねぇーだろ!」
「そうか。なら、これにサインするか?」
新藤大佐はまだ厳しい言葉を涼太に浴びせるものかと思ったが、あっさりである。涼太の答えを聞いて表情も緩み、口調も落ち着いた。
「もちろん!」
そう答え、契約の書類にサインし、新藤大佐に渡した。
「これからよろしく頼む。さて、俺はこの後やつことあるから、続きは後日にする・・・」
(何だ?急に大人しくなりやがって。このおっさん)
「その前に君にある処置しなければならない」
新藤大佐はある箱を持ってきて、そこから袋で抗菌済の注射器を取り出す。
「え、何?」
「マイクロチップを君の手に埋め込まさせてもらう。言っておくが契約した以上は拒否権は無い。業務命令だと思ってくれ。それに君の個人情報や身柄を守るためでもあるし、これがないとそもそもゲームが出来ないんだ」
もう引き返せないのだと悟り覚悟を決めて、左手を差し出した。新藤大佐はマイクロチップ入りの注射器を袋から取り出す。左手の親指と人差し指の間の辺りを消毒した。注射器を見つめる涼太。
「少し痛いが我慢してくれ。すぐ終わる」
差し出した左手に太い注射針がゆっくり近づき、皮膚の中に入っていった。その瞬間、チクッし、さらに、マイクロチップが注射針の穴から射出される時に痛みを感じた。しかし、皮膚からすぐに注射針が抜かれると痛みは無くなる。
「おめでとう。君はこれで我々の仲間だ!」
自分の左手を見ると止血シールを施されていた。マイクロチップの入っている部分を触ると異物感を感じるがそうしなければ何も感じない。そして、新藤大佐は何かを思い出したようで。
「失敬、自己紹介がまだだった。国防軍統合幕僚本部サイバー戦略部隊司令新藤将仁大佐だ。みんなからはよく新藤大佐か大佐、司令とも呼ばれている」
新藤大佐はついでに懐から自分の名刺を取り出し、涼太に渡す。受け取った涼太は名刺を眺めた。
「じゃあ、大佐か大佐のおっさんと呼ぶんで」
「大佐にしてくれ。宍倉君、また後日に。今日は帰っていいぞ」
涼太は別れの挨拶をせずにとっとと会議室を出て帰ってしまった。
「本当にバスケ部か。まったくあいつは?」
新藤大佐はそれから少し椅子に座り込んで休んでいると、入り口のドアからコンコンとノックされた。
「内海です」
「入れ!」
「失礼します」
内海大尉はドアを開け、部屋に入ってくる。
「お疲れ様でした。大佐。彼は合格ですね?」
「彼とすれ違ったみたいだな。彼は合格で我々と契約を交わした」
「すれ違った時に彼の表情を見てわかりました。それにしても彼は大佐の威圧に耐えられるとはビックリです」
新藤大佐が涼太のサイン入りの契約書などをA4サイズの封筒に入れ、内海大尉にそれを渡した。「宍倉君はあんなんだがしっかりと我々に対して意思表示をしてくれた。以外に芯のある男だと感じたよ」
「あの彼がねぇー。でも、大佐がそうおっしゃるならそうなのでしょうけど、私は様子見です」
 そして、翌日のこと涼太は内海に連れられて、地下5Fの施設を簡単に案内された。その際に軍事機密について守秘義務を厳守するようにキツく言われた。
「ようは家族にダチにも一切、話題にせず、死ぬまで言うなってことか?」
「そういうことです。大佐にも言われたと思いますが、あなたはそういう世界に足を踏み入れたのです」
涼太がロッカールームに連れてこられて、制服を渡された。
「グレーの迷彩服か。俺は軍人になったつもりはないけど?」
「ある意味あなたは半分、兵士ですから。それと支給される官品は大切にするように」
「了解でーす」
涼太のその返事に内海は顔の表情をピキッとさせる。
「私は一応、あなたの上官です。これ以上、無作法は許しません」
「硬いですよー。内海大尉でしたっけ。彼氏出来ませんよぉー。それじゃあー」
「大きなお世話です!すぐに着替えて、ついてきなさい」
内海はプンプンと怒ってしまい、涼太もさすがに少しはまずいと思った。グレー迷彩服に着替えた涼太は自分のロッカーを締め、内海について行った。後ろからでも機嫌が悪いのが伝わってくる。
(地雷踏んだか。俺?)
No.08と書かれているドアの前まで連れてこられた。
「大佐が中でお待ちです。そこICのところにあなたに埋め込んだマイクロチップをかざしてください」
涼太は自分の左手に埋め込まれたマイクロチップをチラッと見てから、言われた通りにかざしてみた。すると、『宍倉涼太さんを認証しました』と音声が流れた。そして、ドアが自動的に横にスライドする。中にいたのはもちろん制服を来ている新藤だった。その横に筒のようなカプセルが見えた。
「大佐。おはようです!」
「おはよう。宍倉くん」
涼太は新藤と目が合ったので挨拶をする。そして、新藤がこのカプセルについて説明を始める。
「君の目の前に見えるこのカプセルは何だと思う?」
新藤はカプセルに人差し指を指して言う。それに対して涼太は目の前のカプセルを見ながら言う。
「酸素カプセルぽっいけど、違うんでしょ?」
「もちろん。これはそんなものじゃない。これはブァーチャル世界に入る為の装置だ。それでこのいわゆる”ダイブカプセル”はオーバーテクノロジーで世界中、表には出ていない」
このカプセルは一般ではもちろん2039年のゲーム業界でも誰にも知られていない。門外不出のテクノロジーである。
「要はヤバいやつってことすっか?俺はもう戻れないのかぁー!」
涼太は少しひきづった顔をした。それを見た新藤は笑みを出してこう言う。
「後悔しているか?だが、これを見た時点で完全に手遅れだ。宍倉君!」
「そうみたいだけど、逃げる気はないっすよ!」
新藤はダイブカプセルを使えるようにパネルを操作して、そして涼太を中に入れるようにする為のセッティングをする。カプセルはボタン一つで開くようになっている。
「さて、一通り覚えて貰いたい。そこに君のマイクロチップをかざしてみてくれるか。宍倉君とわかるように認証させなければならない」
言われた通りに左手のマイクロチップをかざすとカプセルのランプがブルーになり、入れるようになった。涼太は中に入り、ヘッドギアを頭に装着して、仰向けになって横たわると。
「もうすぐ、ダイブが開始される。体をリラックスさせるんだ。私も後から行く」
『脳波スキャン開始』
機械的な声が聞こえてきて、涼太であるかの本人確認をしていた。だいたい1分ぐらいが経つと。
『スキャン終了。宍倉涼太であることを確認・認証完了。まもなく"G-Cloud"ダイブ開始!』
するとチックとする痛みがあり見えていたカプセル内の透明な天井が真っ暗になった。涼太は現実世界から意識がシャットアウトされた。
”WELLCOME”・・・”G-Cloud”
画面が真っ暗になってから少しして逆にホワイトアウトされ2つの文字が表示された。
(ジー・クラウド)
涼太は心の中で呟くと”Character coordinate”と画面の表示された。涼太のここでの容姿を定しているようである。それに気づいた涼太は。
(こーでぃねーと。勝手に決められてんの。ふざけんな。俺に決めさせろ!)
『無理です』
機械の声に淡々と返事をされた。
(聞こえるのかよ!)
『ログインしますが、よろしいですね?』
(ああ)
涼太は投げやりに言う。
『ログイン』
その声が聞こえたと同時に涼太の白い視界は開けるとそこには現実とは違う別の世界が広がっていた。
  • 悠霧
  • 2019/03/26 (Tue) 19:58:09
 涼太は冷蔵庫にあった残りもので夕食を済ませていた。夕食の片づけを終えると、ベットの下からVR用のヘッドギアを取り出して、セットする。頭に取り付け電源のスイッチを入れると、黒い画面から景色ある映像に切り替わった。そこからインターネットを見れるアイコンの名をつぶやくと、インターネットが開かれる。キーワード検索する時も音声で入力する。早速、求人サイトでこの地域のアルバイト情報を見た。
「こんなもので良いか。とりあえず」
読んでて興味が湧いた求人内容をお気に入りキープしておいた。この時代のアルバイトというと学生アルバイトの数は限られている。定番のコンビニの店員はほぼ無人化されてしまい、商品の管理、清算はAIに置き換わっていた。ファミレスチェーン店などに至っては、フロアーにスタッフはいない。ロボットが接客や配膳をしていてフロア-内をクルクル動いていた。あるのは、ファミレスのキッチンやとにかく単純作業以外のものぐらいである。そして、涼太は次に動画サイトを見る。VRで見るので自分がそこにいる感覚に陥ることがあり、物にぶつかってケガをすることが社会問題となっていた。このサイトは配信されてから約34年近くになっていて、サイトの規模は未だ世界1で衰えを見せていない。いろんな動画を見て、1時間以上が経過したころだろうか。1通のメッセージが涼太の元に表示された。途中で動画を止め、メッセージを確認する。
「誰だよ。これ?」
涼太は誰もいない一人暮らしの部屋で呟いた。
「アドレス見覚えねぇー」
次にメッセージのタイトルを確認した。
『VRゲームでみんなを守るお仕事!アルバイト募集』
見た目も中身もリア充の涼太はなぜか興味を惹かれてしまった。本文には応募をして、適性テストの合格者に具体的な内容を説明すると書かれている。不合格なら相手に個人情報だけ渡して終わりになってしまう。この時代は20年前より個人情報に関してはシビアになっていた。超高度情報化社会となり、無数と言っていいほどの情報がネット空間に蔓延している。どこでどう悪用されるかわかったものでは無い。こんなメッセージ、普通なら削除して終わりであるが涼太は今回そうしなかった。続きにはこう書かれている。
『時給1400円』
こんなの増々胡散臭いのだが自然と応募ボタンを押してしまったのである。意外だが涼太はVRゲームに少し興味を持っていて、時々プレイをすることもある。1分足らずして返信のメッセージが表示された。
『受理しました。しばらくお待ちください』
眠くなってきた涼太は部活の疲れも残っていたので、起きて待たずに寝てしまった。
 翌朝、外が明るくなると共に目を覚ますと、日課のごとく髪をオシャレに整える。身なりを整え、スマートフォンにメッセージが入っていることに気づいた。
「帰ってからで良いや!」
涼太はアパートを出て、学校に行く。今日は部活の朝練には参加しないつもりである。気づくといつの間にか前に生徒会長の後ろ姿が見えた。涼太が後ろにいることは気づかれていない。
「ゲッ、生徒会長かよ!バレませんように」
出来るだけ気づかれないように歩いていると、生徒会長の今まで見たことのない姿を見てしまった。手を抑えてアクビをしている姿である。すると、会長は何かを感じたのか突然、後ろをパッと振り向いた。目が合い気づかれてしまう。会長は一瞬、目を見開く。
「どうすんの。これ?・・・」
涼太が思うと会長から高校の時のように怪訝な顔をされる。これがどういう意味かなんとなくわかった。
「忘れろってか」
生徒会長は前を向いて、何も無かったようないつもの冷たい表情で足早に去って行ってしまう。
「何にも言わねぇ―のかよ。ストーカーと思ったのか?」
その後、学校で教室移動中に生徒会長とすれ違うことがある。いつものようにポーカーフェイスで冷たい目なのだが一瞬、表情が歪むのを涼太は目撃するのだがすぐに元に戻る。生徒会長についてつるんでいる仲間にいろいろ聞いてみた。
「あの会長さんはいつもあんな感じだ。俺たちは特に目を付けられてるからな」
「しんどいぜ。マジ!」
「お前なんか余計だな」
放課後、涼太が生徒会室の前の廊下を通りかかると、中から声が聞こえてくる。会長だとわかり立ち止まった。どうやら会議をしているようである。
「学校の風紀を乱す人にはこれからも毅然と対応していきます。風紀委員会はさらに徹底を!」
ゆっくりと歩き出し、生徒会室を覗くことが出来るドアにある窓で中を見ようとした時一瞬、目が合ってしまう。生徒会長はその時、ハッとし表情が変わった。しかし、すぐに視線が戻り、いつものポーカーフェイスになる。
(嫌がらせ?)
生徒会長早乙女はそう思いながら会議に意識を戻した。涼太はそのまま帰るために廊下を歩いていく。
「気づくなよ!感が良すぎ」

 あれから涼太は部活の練習に行き、一通りのトレーニングメニューをこなし、模擬試合をする。涼太側のチームが勝つ。いつものように隣半分が剣道部が使用していたが下校まで生徒会長早乙女の姿は無かった。
「今日は思う存分出来て良かったわ」
部活が終わり、下校しアパートの自分の部屋に帰る。早速、今朝のメッセージの内容を確認する為、アプリをタップする。学校にいる時でも見ようと思えば、出来たのだが涼太にはその意識が無かった。
『ご応募ありがとうございました。あなたの個人情報を含めた審査の結果、適性テストを受けて頂きたいと思いますので下記の操作をお願いします』
指示通りに操作をする。ヘッドギアをかぶり、指示にあるURLにアクセスするとパスコードを要求された。これも指示通りに入力する。すると涼太の個人情報に間違いが無いかという確認してきたので”Yes”をコントローラーのボタンで押した瞬間、ここから全てが始まる。テスト内容はFPS(ファーストパーソン・シューティング)ゲームで操作内容を確認してスタートボタンを押すと画面が黒くなったかと思えば、突如してリアル感を錯覚するVRの世界が広がった。この世界の舞台は荒涼とした廃都市というイメージである。突っ立ていると標的になりそうなので歩いていくことにする。携帯しているのがハンドガン一丁と手榴弾2つさらにサバイバルナイフの三種類だった。
「久しぶりだな。ゲーム」
涼太は高校に入ってからはゲームをしていなかった。しばらく歩いていたら突如、銃声がして自分の横を銃弾が通っていった。びっくりして体勢を崩してしまう。
「やべぇー!」
急いで物の影に隠れる。そして、ハンドガンを取り出し、いつでも撃てるように安全装置を解除し、引き金の人差し指をかける。再び銃弾が飛んでくる。しかし、敵の居場所は把握出来ない。
「どこだ!」
すると、何かが自分の所に飛んできた。それを見ると手榴弾である。被弾すればHPが0になり、適性テストは不合格になる。
「やべぇー!」
急いで廃墟の建物の中に入っていくと、爆発音が聞こえてきた。
「いつまでも逃げてもしょうがないし。思い切ってやるか」
このテストには時間制限があり、いつまでも隠れていられない。敵の位置の把握して打って出ようとしていた矢先に赤いレーザーがこちらに照射された。その次の瞬間に銃弾が飛んできた。
「向こうは俺の位置をわかってんな」
涼太は物陰から敵の位置を確認した。敵はこちらの方向を見ながら立ち尽くしている。
「あいつの後ろに回り込んで見るか」
物音を立てずにゆっくりと動く。敵は気づいていないようだ。そして、後ろに回り込み狙える位置についた。涼太は敵に赤いレーザーを照射した瞬間、引き金を引く。すると、敵もとっさに距離を詰めようと向かって撃ってくる。涼太は冷静になり、サバイバルナイフを取り出す。こちらも足元を狙いながら打つと敵は足を崩し、倒れた。こちらもつかさず距離を詰め、敵を切りつけた。そして、銃の引き金を引いた。すると敵は動かなくなり、消滅すると、頭上に「Test-End」と表示された。
「死ぬかと終わった。死ぬわけないけどなゲームだし!」
独り言を呟いた。そして、画面が切り替わり黒くなったかと思うと「あなたは合格です」という表示が出てきて、次にある動画を見させられた。

-電脳世界「G-Cloud」
ネットワーク上に存在する世界。全体のイメージは宇宙のような暗い空間に惑星の球体が浮かんでいる。球体をアップにしてよく見てみると、黒い球体に円環の形をした物体が覆っていた。その円環にも施設ような建物が立っている。円環から離れた所に衛星が浮かんでおり、さらに離れたところには発射砲のような形をしたものが装備されていた。そこに向かってアメーバ状の生物が攻撃を仕掛けて来ている。それに対して最外周にある発射砲が搭載されている衛星が迎撃し、撃退した。その様子を大きなパラボラアンテナを搭載している衛星から見つめている人間がいる。その人物は女子で雰囲気が凛としているような感じである。
「最近は多いわ。どこか特定出来そう」
「恐らく。いつものところですよ」
後ろに控えている女性が聞かれたので淡々と答えた。
「大佐に報告して、外から支援してもらわないと。時間の問題でシールドもやられるわ」
円環から通信が入り、画面が映し出される。その人物は涼太達によく絡まれていて、早乙女がそれを見つけ、助けていた。
「会長!僕から大佐に報告しておきますよ」
「ここで会長はやめてよ。それより、大丈夫だった?」
早乙女は助け出した後のこと、さらに因縁つけられて来ていないか聞いた。
「それはまぁー」
会長と呼ばれた人物はあの早乙女である。いつもポーカーフェイスのイメージだが少し怖そうな表情に変わる。
「あいつがこれ以上するなら、退学に追い込むから。あいつは学校の癌だわ」
「僕もこれ以上されるなら・・・」
早乙女がその言葉に感づき、懸念を言う。
「それだとあいつと一緒に退学されるかもしれないわ。そんなの私が何とか!」
「それより仕事しないと」
「真田君・・・」
それから、画面は消え、外の方をただ見つめているだけだった。
  • 悠霧
  • 2019/03/25 (Mon) 20:16:19
 春の朝、少年は自分のベッドの上で目を覚ます。少し長い髪をヘアースプレーで整えて、高校の制服に着替える。制服はブレザーで少年はワイシャツの第二ボタンまで締めず、ネクタイも緩めた状態である。彼にとってはオシャレのつもりであった。スマートフォンでSNSを見てから、一人暮らしのアパートの鍵を掛け、出て行く。4月ではあるがまだ、肌寒い季節である。今日は新学期で少年は二年生に進級する。この少年の通う高校は東京都の東側にあり、アパートからは歩いていける距離にあった。
「わりぃー!」
「行くぞ。涼太。村上の奴がうぜぇ―から」
「あぁ」
一年の時からつるんでいる仲間と共に歩いて行った。学校に着くと掲示板に新しいクラス名簿が張り出されていた。掲示板に近づこうとすると、群がっていた生徒達が涼太達の顔を見て、掲示板を見るポジションを譲って離れていく。
「クラス別じゃん」
「マジかよ。つまんねぇーな。お前らと離れるなんて」
涼太とつるんでいた仲間たちは別々のクラスになった。涼太は退屈になるなと思っていたが自分の新クラスの名簿のある名前を見てからは感想が変わった。
「そうでもないかもなぁー。あいつと一緒だ」
「どいつだ?」
涼太はその名前に指を指す。
「こいつか。良かったな。また楽しめそうだな!」
「あぁ、そうだな」
そして、二年生の教室に向かって、涼太は自分の教室に入ると、男女問わずクラスメイトからいろいろと声をかけられた。涼太はさっき話題に上がった名前の生徒の席に近づいく。
「また一年よろしくなぁ!」
声をかけられると、ビクッとして、下を向いて「うん」と返事をする。すると、つるんでいた仲間の一人が出てきて、笑みを浮かべて机を軽く蹴飛ばした。
「ちゃんと返事しろよな。舐めてんのか俺たちのこと」
「イジメだぜそれ。やめとけ!」
笑みを浮かべてはいるが、仲間の一人を止める。それから、体育館で新学期の始業式で新担任の発表から始まった。
「ちっ、飯島かよ!」
涼太の担任は30代の女性であった。その次に校長の挨拶になり、話が長い為、床に座り込んでしまう。すると、「宍倉っ!」と担任から女性の甲高い声で叱られてしまった。皆の注目が一瞬集まり、校長の話している方向に顔の向きが戻る。一方、つるんでいる仲間からは笑われ、三年生のいる方からは一人の凛とした女子から冷たい視線を浴びた。
「さっそくかよ。それにあの会長の冷たい視線」
涼太に冷たい視線を向けたのは、この学校の生徒会長である早乙女由梨だった。やがて校長の長い話が終わると、次に生徒会長が新学期の挨拶をする為に登壇した。
「新入生をこの学校に迎え、新学期をスタートすることになりました。上級生の皆さんは上級生としての自覚を持ち、一年生のお手本となるよう行動して下さい。そして、生徒会長選挙の時にも言いましたが、規則と規律を乱す者は生徒会長として許しませんのでよろしくお願いします」
生徒会長早乙女は全校生徒の前で淡々と宣言した。一年生の一部がコソコソ話し出すとそれを見た生徒会長は冷たい目で一年生の方を見下ろし最後に一言付け加える。
「新入生も同じですので、容赦しません!」
一年生からコソコソ話は止んだ。その時、生徒会長の冷たい目に少し恐怖した。一連の様子を見ていた宍倉涼太も。
「怖っ!マジ勘弁」
涼太は今年もかという気持ちだった。
「それでは以上です」
生徒会長は壇から降りて、自分のクラスの並んでいる列に戻っていった。やがて、始業式が終わり、各クラスごとに教室に戻っていく。

 始業式が終わり、休み時間を挟んで、ホームルームが始まる。涼太の新担任の飯島が教室に入ってきた。しかし、他のクラスのつるんでいる仲間と遊んでいて、涼太は遅れて入ってくる。
「宍倉君。遅いわよ!」
「遊んでいて・・アハハ」
涼太が言い訳すると、担任の顔が不機嫌な顔になる。
「早乙女さんの言ったこともう忘れたの。宍倉君、あなたとは後で話があるから、今は席に着きなさい!」
黙って席に着いた涼太。ホームルームはまず担任の自己紹介からスタートした。
「あなた達の担任になった飯島那美です。一年間よろしくね!」
「趣味は何ですか?先生」
一人の女子生徒が質問した。担任は表情を緩めて、ニコッとしながら「ヒ・ミ・ツ!」と答える。
「キモッ」
涼太はボソッと呟くと一瞬、担任からキツイ視線が飛んできたような気がしたが気にしないことにした。
 その後に、クラスの生徒が自己紹介を始めて言った。自己紹介が長い人や短い人など、涼太の場合は照れくさいと思って短くした。
「宍倉涼太。部活はバスケ部。よろしく!」
やがて全員の自己紹介が終わり、これからのことについて担任が一通り説明をする。担任の飯島が持ってきた手提げから薄いタブレットを取り出した。学校の教室には黒板はもう無い。今は学校教育もデジタル化して、教科書もノートも紙媒体で持ち歩いている生徒はいない。タブレット一つ持ち歩けば済むような時代になり、20年前以前のように毎日重たい教科書などを持ち歩く必要が無くなった。
「タブレット出して!いまからプリントを配るから」
プリントもかつてのように担任が手渡しするのではなく、担任の手元にあるタブレットに入っている送信ボタンをタップするだけでクラスの生徒に一分足らずで届いてしまう。
「じゃあ。プリントを見ながら説明するから。ネットは見たらダメよ!」
担任は一通り、プリントの中身について主にこれからの学校行事について説明して行った。説明していると宍倉涼太がタブレットを頻繁にタップしていたのでまさかと思い、座席まで近づくとプリントの画面だったがしかし、ごまかされなかった。
「宍倉っ!」
涼太に担任の怒声が放たれた。顔を見上げるとお怒りである。
「何やってんの?」
「え?」
聖斗は何のことかというフリをしていたが、通用するわけがない。
「とぼけても無駄よ。ネットは見ないでって。言ったわよね?放課後、部活が終わったら職員室に来なさい。いいわね?」
「だるっ!」
ボソッとそれを言った瞬間、物凄く睨んできた。
「はい。先生」
ホームルームが終わり休み時間になると、つるんでいる仲間達がやってきて、さっきの出来事のことを話をする。
「そういうことなら。また、あいつらと遊ぼうぜ。涼太?」
「あぁ!」
彼らは笑みを浮かべ視線の先には、オタクの雰囲気を持った生徒がいた。去年と同様にちょっかいをかけにいく。
「お前ら、涼太が怒られた時にクスクス笑ってたんだってなぁー?」
「笑ってないよ」
否定しているのに涼太達は、詰めよっていく。
「俺は聞こえたけど、お前らの心の笑いが!」
「いいがかりじゃないか。そんなの」
涼太が朝、教室でちょっかいをかけた生徒が出てきた。
「俺に口答えかお前?もっと楽しませてやるよ!」
涼太が拳を振り上げる素振りを見せると、後ろから女子の声がした。
「あなた達、何してんの?私の言ったこと忘れたのかしら!」
「早乙女・・・」
生徒会長の早乙女が現れた。休み時間に変なことがないかと校内を巡回していて見つけた。
「先輩か会長でしょ?」
早乙女から冷たい視線が涼太達に飛んでくる。涼太達でも黙ってしまう相手である。去年は痛い目にあったこともあった。そして、一瞬前に出てきた生徒と早乙女の目が合ったがすぐに視線は戻る。
「懲りないわね。いい加減にしないならあなた達を退学にさせるわよ?」
「脅しか?」
涼太が口を開いて、早乙女に聞いた。
「脅しじゃないわ。本気よ!これ以上風紀を乱されるわけにはいかないから。どうなるかはあなた達次第になるけど」
すると、つるんでいた仲間達は教室からいなくなった。
「ちっ!」
不機嫌になった涼太も座席に座って、携帯をいじくった。
「あなた達何かあったら私に言いなさい」
「はい」
早乙女はチャイムがもうすぐ鳴りそうなことに気づき、早歩きで戻っていった。

 放課後になり、涼太はバスケ部の練習に出る。今、体育館でバスケ部と剣道部が使っていて涼太がバスケをプレイ中、妙な視線を感じたので、その視線を何気なく探すと、剣道部の方に生徒会長がいて、涼太の方を見ていた。相変わらず冷たい雰囲気をこちらに向けていた。
「またあいつ。何考えてんだ?」
「どうした?」
涼太の動きが止まったので、同級生の部員が声をかけてきた。今のことを部員に説明すると。
「お前、ついてないな。いっつも問題起こしているから目が話せないんだろ」
「早乙女がダルいんだよ!」
「生徒会長様だからな。それとも、お前に気が・・・」
それを言われて、少し不機嫌な表情をした。
「マジ勘弁。あんなのと付き合えねぇーし、息が詰まるわ!」
同級生の部員が剣道部の方からの視線に気づいた。
「やべぇ。会長がこっち見てるぞ。戻るぞ!」
「あの仏頂面どうにかなれば、少しはかわいいんだけど」
涼太と同級生は雑談を止め、試合に戻っていった。一方、涼太達を見ていた早乙女は剣道着を着ているとさらに凛とした印象が強くなる。
「また、私の悪口でも言ってんでしょうね。どうせ」
 涼太は部活が終わり、つるんでいた仲間にさっきの出来事を話していて、いい加減絞めようかという内容も出たが、涼太が「やめとけ!」と否定した。そして、途中で別れ、一人でも帰り道である。辺りもう薄暗くなっていた。
「金が無いから、アルバイトでも始めよっかな」
涼太はやがて、自分の住むアパートに着くと、暗くなった部屋に明かりを点けた。そして、制服を脱いでシャワーを浴びて、髪を乾かしオシャレに整え顔、眉毛の手入れをする。それが終わり、立体映像のテレビを点ける。この時代では最早、液晶テレビも古い存在になっている。今は液晶テレビのように映像を映し出す為の画面機器ではなく、ホログラムの画面機器を必要としないテレビが主流となっている。全ては一つのレコーダ機器だけで済んでしまい、部屋の場所を取ってしまうというような、問題も無くなった。
『あの悲劇から10年が経ちました』
テレビから女性アナウンサーの声が聞こえてくる。かつて地上波と呼ばれていたテレビはインターネットでも見られるようになり、地上波とネットの境目が完全に無くなった。但し、公共放送や衛星放送などは課金しなければならないシステムとなっていた。
『復興は進んできましたが、被害者とその家族の心の傷は未だに言えていません』
かつて2029年に主要各国の都市に人口衛星が多数落下し、甚大な被害を与えた。これが世界同時多発人工衛星落下事件である。それが東京23区の西部に落下し発生した。
『私たちはこの出来事を忘れてはいけません。これから総理が献花し、追悼の言葉を述べます』
総理が献花しようとするところで、あの日の映像も小窓で映し出されたのでそれを見た瞬間に、バチっとテレビの画面を消した。涼太は険しい複雑な表情をしていて学校の時の表情とは違っていた。部屋の出窓の所に写真立てがいくつか置かれており、その一つに七才ぐらいの時の涼太と両親や六才ぐらいの妹と一緒に写っていた写真があり、それを涼太はただ見つめていた。そうしていると突如、スマートフォンが鳴った。画面に表示されている電話番号に見覚えが無い。電話が鳴り止まず2分以上経過している。
「誰だよ。ひつけぇーな!」
鳴り止むことが無さそうなので、電話の受話器ボタンをタップする。
「もしもし。誰!」
「私です」
涼太は声を聞いた瞬間、忘れていたことを思い出した。
「先生?」
「そうです。放課後、来なさいと言ったでしょ?どういうつもりかしら」
電話の相手はもちろん担任の飯島である。声の感じは怒り気味で大きいのが印象だった。
「すみません。すっかり忘れてました。わざとじゃないです。本当に」
涼太の言うとおり本当に忘れていたのだ。部活に夢中に鳴っていたことと生徒会長のあの視線で余計に頭から抜けてしまっていたのが原因である。
「宍倉君、あなたはもう少し真面目に出来ないのですか?格好のことも気になるけど、あなたが一部の生徒に対してのいい噂を聞きません。はっきりというのは止めておくけど、私がもし見つけたら担任でも容赦しません」
「生徒に脅しですか?先生」
「全ては宍倉君、あなた次第です。今日はそれを言いたかった。明日、また学校で」
すると、電話が切れた。涼太は様子は少し沈み気味である。
「遠回しにハッキリ言ってじゃん。俺は青春を楽しみたいだけなんだよ」
涼太の方も電話を切って、冷蔵庫のある方に行った。
  • 悠霧
  • 2019/03/24 (Sun) 23:32:29

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